2023年、症状検索エンジン「ユビー」3周年記念LPの制作においてカロアと協業したUbie様。会社全体でデザインやユーザー体験向上への意識が行き届いています。本記事では、プロダクトデザイナーの村越さんから、Ubieがデザインに力を入れる理由やそれによる事業への影響、デザインの力で達成したいことなど、幅広く語ってもらいました。(以下敬称略)事業フェーズやフォーカスしたいことに応じてデザイン体制も変えていく 組織体制のトライ&エラーを続けるUbie村越:今は社員数が約280名の規模でプロダクトデザイナーは9名です。プロダクトデザインに関しては、基本的に社内のデザイナーで行っています。他に、製薬企業向け事業開発組織にコミュニケーションデザイナーが1名、全社の組織運営をするチームにブランドエクスペリエンスデザイナーが1名います。プロダクト開発組織、製薬企業向け事業開発組織、ブランディング、と組織を横断して広くデザイナーが所属している体制です。デザイナーの配置は、企業によってもフェーズによっても変わると思っています。他社を見ても、「デザイン機能」として横串でプロジェクトごとに対応できるようにしているケースと、完全に事業部付にしているケースがあります。どちらのやり方も一長一短あるので、Ubieでもそこはトライアンドエラーを重ねていますね。事業フェーズやフォーカスしたいことに応じて変わっていいと思っています。Ubieの組織的な強みは、組織体系の変更に柔軟なところです。デザイン組織だけでなく、全社のガバナンスの仕組みを、課題に対して柔軟に変えていける土壌があります。ー会社規模が大きくなると、デザイナー同士のコミュニケーションも難しくなってきます。コミュニケーションにおいて工夫している点を、村越さんは語ります。村越:僕が入社した2021年初め頃はちょうど100名くらいの時期だったので、今は2.5倍以上になっています。当時と今とでは事業のステージも組織規模も全然違って、コミュニケーションの仕方も変わりましたね。デザイナーはいろいろな組織に散らばっていて、かつ弊社は米国に向けたプロダクト提供もしていて、グローバル事業を推進するチームもあるので、グローバルチームのプロダクトデザイナーもいます。日本語だけでなく、英語も交えて、なるべくコミュニケーションが言語によって断絶しないように、デザイナー全員で集まって情報共有する機会を意識的に作ろうとしています。今は、デザイナー全員が入っているSlackチャンネルで、情報共有や気になることの共有、お互いにレビューし合える体制づくりなど、コミュニケーションをスムーズにするようなトライアルをしているところです。Ubieとしてのデザインの位置づけも入社時からは変わっていて、特に最近は、プロダクトや事業の成長と相まって、デザインの解像度がどんどん上がっています。例えば2年前の段階では、症状検索エンジン「ユビー」はグロースの途上にあり、ユーザー獲得が最優先でした。そのフェーズでは完璧なユーザー体験や、美しいプロダクトデザインよりもまずはスケールすることを優先していました。今は一定の規模のプラットフォームになってきたので、既存のユーザーに長く使い続けてもらうため、より良い体験を提供するデザインに、フォーカスを当てて考えています。プロダクトや事業が成長して、組織の規模も大きくなってきたからこそ、ブランディング的な側面やコミュニケーションデザインなど、プロダクトデザイン以外の部分も考えなければならない部分が増えてきました。そういった、事業や組織の成長に合わせてデザインの機能自体も広げていく必要があると感じ、デザイン組織のケイパビリティを広げていけるような改変をしていきたいと考えているところです。全社的にデザインや顧客体験に対する意識が高いから、他部署ともコラボしやすい「適切な医療に案内する」ことをベースにするから、組織全体のデザイン解像度は高い村越:全社的に、「顧客体験の向上と事業成長は非常に関係が強い」という共通認識があります。ミッションを達成するために、患者さん、医療従事者の行動・心理だけでなく、製薬企業の課題もインプットとして、それをプロダクトに落とし込んでいくことが、「適切な医療に案内する」ことにつながるという考え方が浸透しているのです。そのため、組織全体でデザインに対する関心や理解度が高く、チームを横断したコラボレーションがしやすいカルチャーがあります。みんながみんな「デザイン」という言葉で語っているわけではないのですが、根底の想いは共通しているので意思疎通がしやすい。今まで働いてきた組織の中でも珍しいところだなと思います。他にも、Ubieは初期フェーズから、D4V(Design for Ventures)というデザイン領域に強いVCから出資を受けています。パートナーシップも続いているので、今でも相談することがあります。そういった中でナレッジを吸収しながら、社内にデザインへの意識が高まっている側面はあると思います。ー組織全体に共通の想いが通底しているという稀有な組織であるUbie。その上で、細かなやり方や進め方についてぶつかりあうこともあるようです。村越:これは現在のフェーズでの話になりますが、弊社の組織の運営体制として、基本的には事業部ごとに別れた組織ごと、組織全体で事業成長にコミットしていきます、組織全体で事業成長にコミットしていきます。全員が事業ストーリー、事業計画をきちんと理解し、「この道すじでミッション達成を目指す」と腹落ちしているのです。だから方法論としてもそんなにずれることがない。もちろんいろいろな考え方があることは重要ですし、みんなで議論することは重要だと、組織として認識しているので、時に意見がぶつかり合い熱い議論が生まれることも推奨しています。議論を通じて、新しい観点を見つけたり、言葉は違えど、本質で思っていることは同じだったりという気づきはよくあり、相互理解に寄与している実感があります。プロダクトデザインだけでなく、それ以上の組織的な視点を持っている人がそもそも多いのかもしれないですね。それぞれが自走して仕事を進めていける人材がそろっています。デザイナーは成果をもっと主張した方がいい村越:個人的には、成果の主張をしっかりできてほしいなと思います。営業やマーケティングなどビジネスサイドの人と比べて、デザインにかかわる人たちの多くは、成果の主張があまりうまくなくて、もったいないなと思う人が多いです。確かにビジネスサイドの方がわかりやすい数字で表現できる成果が多いのですが、デザインに関しても、捉え方によって成果だと言えることはたくさんあります。何かの賞を獲ったこともそうですが、例えば制作物が社内的に非常に強い影響力を持った、それによってその人にたくさんの仕事が集まるようになった。こういったことも立派な成果だと思います。チームで制作していると、どこまでを自分の成果として語っていいのかわからないという気持ちもわかりますが、自分がコミットしてやっていることであれば、その結果起こったことに自信をもって成果を主張していってほしいですね。Ubieは、ビジネスへの可能性を全員が心の底から信じている会社熱い人たちと一緒に集中して事業に取り組める環境村越:前職のコンサルティングファームにいた時に体調を崩して休職し、半年くらい休養をとっていた時期がありました。そのときに、改めて働き方や関わりたい事業・企業などを自分の中で3つに定義し直しました。1つは、しっかりと自分の言葉でプロダクトのビジョンやミッションを語れる事業であること。次に、デジタル化があまり進んでいない産業であること。そして、人々の生活に近い、長く使ってもらえるプロダクトになり得ることです。それを踏まえ、教育や医療業界でいくつか浮かんできたので、何社かのお話を聞きました。そのときにプロダクトやビジネスに対する熱気や情熱がずば抜けていたのがUbieでした。「スタートアップはしんどそうではあるけど、これだけ熱い人たちと一緒に集中して事業に取り組める。チャレンジングだけど飛び込んでみるか」という感じでした。ー優しく温かいイメージのコーポレートサイトとは裏腹に、熱さをもった組織。だからこそ、事業成長を続けているのでしょう。村越:「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」というミッションと、事業が持っている可能性を全員が心の底から信じている感じです。それは入社して2年半が経っても全然変わらない、むしろどんどん強くなっている気がします。常に未来の話をしながら、僕たちはこれからどう進んでいくべきかということを、経営陣だけでなくて、みんながそういうレベルで話ができるので、本当にみんなで経営している感覚です。あと、組織学習の早さも特徴ですね。例えば新規のプロダクトを出していくスピードはめちゃくちゃ早いですし、組織のガバナンスを素早く変えていくことも厭いません。これは入社して一番驚いたところですね。ビジネスに寄りすぎることによるリスクを、デザインチームによる“健康診断”で防ぐデザイナーは、ユーザー体験や価値提供への番人村越:僕はクライアントワークも事業会社も特に心構えは変わりません。どちらにしても事業ドメインを把握して、クライアントのサービスや組織を深く理解することは同じですし、コミュニケーションも個人的には変えていません。特性の違いとしては、事業会社だと事業開発サイドもデザイナーも含めて、事業成長上の優先度に強くフォーカスを当ててプロダクト開発を行うことが多いので、気が付かないうちにそのデザインがユーザー体験を毀損していないか、や、良くない体験を提供したりしていないかは、常にチェックしないといけないということです。気がつくとビジネスに視点が行き過ぎることは、ある程度仕方がないと思います。だからその前提で、デザインに関わる者として忘れてはいけないのは、N-1の生活者の暮らしと人生がそこにあるということ。その中にプロダクトの利用体験が入ってくるということ。デザイナーは、ユーザー体験や価値提供への番人でなければならないと考えています。ー最後に、Ubie社がデザインの力を使って達成したいことについて、村越さんに語っていただきました。村越:体験設計上重要だと思っているのは、ユーザーインターフェースやプロダクトの触り心地もさることながら、ユーザー1人1人の背景、心理状態を深く考えることです。もっと深く、心のメカニズム、価値観などを理解したいのです。理想としては、「こういう体の状態、こういう心持ちの人であれば、こういう情報を提供してあげればその人にとっての価値になる」といったことを個人の単位で理解したい。1人ひとりにとってより良いコンテンツ、コミュニケーションを提供していくと、「適切な医療に案内する」にもっと近づくと思っています。ユーザーの心を深く理解した上での体験設計と、マス的に量を取りに行くビジネスとの接続をきちんとしていけることは、デザインがビジネスの成長に直接的に関与することの証左になりますよね。そんな事例をこれからつくっていきたいと思います。[取材/執筆]落合 真彩 [撮影]金澤 美佳