「“自分らしさ”がわからない」。ありのままに自分の想いを発信したり、好きなことで生きている人たちを目の当たりにすることが「日常」となっているなかで、“自分らしさ”のない自分に惑う若者たちが増えている。そんななかで、Z世代を中心に支持されているのが、AIが思考と感情を分析してフィードバックをくれるジャーナリングアプリ『muute(ミュート)』だ。今回は、『muute』を手掛けるミッドナイトブレックファスト代表の喜多紀正氏に、『muute』誕生の背景や、セルフケアの未来について話を伺った。「自分らしさを知る」という“セルフケア”喜多氏が率いるミッドナイトブレックファストでは、行動観察やインタビューから得た消費者インサイトをもとに、デジタルプロダクトを開発している。「自分たちが作りたい」ではなく、「ユーザーの悩みを解決する」ことを起点にものづくりをするというアプローチだ。そのなかで、Z世代にターゲットを絞り、インタビューを行うなかで、とある課題が浮き彫りになった。それは、「自分らしく生きたいけど、自分についてわかっていない」というZ世代のリアルな悩みだ。それを解決する手段として挙がったのが「ジャーナリング」である。頭に浮かんでいるものを紙に書き出すことで自己理解を深める、「書く瞑想」とも呼ばれるこの手法は、欧米ではポピュラーなセルフケアのひとつとして支持を集めていた。数あるセルフケアのなかでも、「ジャーナリング」に着目した理由について、喜多氏はこう語る。「もともとジャーナリング自体の効果が、『メタ認知』を高めるもの。そして、『自分を知る』というのは、メタ認知をすることとほとんど同義なので、そこがうまく結びつきましたね。『自分を知る』ことが結果としてはセルフケア、メンタルケア、そしてウェルビーイングに繋がっていくんです。『自分』というのは、他者のようなもの。たとえば、誰かを幸せにしようとしたら、その人のことを知らなければ、何を与えればいいのかもわからないですよね。同様に、自分を幸せにするためには、自分を知らないといけないんです。ただ、そのために単純にジャーナリングをするのでは紙に書くのとほとんど変わらない。デジタルならではの付加価値をつけて、書いたものをAIが分析してフィードバックを送るような仕組みにしたら面白いんじゃないか、という発想から『muute』のコンセプトが作られていきました」そう、『muute』は、日記のように自分の書きたいことを書くだけのアプリではない。人が書いた文章から、AIが思考と感情を分析して、フィードバックをくれるのである。乱雑な字で書かれた日記を読み返すことはない。無論、人に見せることもない。そこに、AIという“人ならざる”第三者による客観的なフィードバックがあることで、私たちは冷静に自分を俯瞰することができるのだ。もちろん、『muute』の運営もユーザーの書き込みを見ることはない。『muute』は「人」が一切介入しないクローズドな場所なのだ。「自分を知る方法にはさまざまなものがあるけれど、仮にカウンセリングやセラピーに行ったとしても、人の目が気になったり、評価を下されているように感じて本音を話せない人は多いんです。でも、本当に内省するためには、自分のあまりにも恥ずかしい一面や、情けないことに素直に向き合ってしっかりと言語化しないといけない。だからこそ、“誰にも見られていない”ことが確実に担保される設計を心がけました」「自分らしさがわからない」人を取り巻く環境ところで、Z世代へのインタビューのなかで浮かび上がった「自分らしく生きたいけど、自分についてわかっていない人」というのは、どういう人なのだろうか。喜多氏によると、いくつかの現象と紐づいているという。「まず、リサーチのなかでわかったことは、Z世代が『SNS疲れ』を起こしているということ。InstagramやTwitter、TikTokなど、日々さまざまなSNSを使うなかで、つねに誰かの目が存在していることや、自分と誰かを思わず比べてしまうような状況に晒されているんですね。特に、表向きに発信をするとなると、投稿内容やメッセージにはとても気を遣います。そんななかで、『ありのままの自分』は影を潜めていってしまいます。次に、SNSで複数のアカウントを持っていたり、リアルな世界でも相手やコミュニティによって、さまざまなアイデンティティを使い分けるなかで、いわゆる『本当の自分』を知りたいという気持ちが湧き上がってくる。この現象を、我々は『自己の空洞化』と呼んでいます。最後に、大きな社会の流れとして、昔のように例えば“とりあえず”銀行や大手商社で働けば大丈夫というようなレールがなくなりつつあるなかで、『好きなことで生きていこう』という無責任なメッセージに苦しむ人が多いです。人って、自由を求めるけど自由が嫌いじゃないですか。意思決定をすごく嫌がる傾向にあります。でも、自由度が高まると意思決定をする回数も増え、改めて自分で一つひとつ考えていかなければいけない。そうすると、より『自分のことがわからない』と思考を巡らせていく…という現象が起きているんですね」「SNS疲れ」、「自己の空洞化」、「“自由”の罠」…。情報社会であるがゆえの現象に悩まされる現代人たち。そんな時代のアンチテーゼとして『muute』は存在する。「常時接続」から切り離され、そのままの自分でいられる空間として。自分以外の人が存在しないなかでも、AIによってやさしい言葉を掛けてもらえる安全地帯として。「自分らしさ」に対する解を探すなかで、ひとつの拠所として『muute』は現代に受け入れられた。muuteを使った先にある「“muute”のない時間」実際に、『muute』を使うことで、ユーザーはどのような時間を得られているのか。「つながらない時間」「自分らしさを解き放つ時間」…そんな回答を予想していたのだが、喜多氏の答えは、意外なものだった。「『ありのままの自分を受け入れよう』と言われるけど、『認知する』と『受け入れる』って別物だと思うんですよ。『muute』を使えば、今の自分の状態を認知することができます。でも、それが自分の好きじゃない自分だとしたら、無理に受け入れなくていい。認知したうえで、『将来どうなりたいか』『何をすればもっと素敵な自分になれるか』と『未来の時間軸』で見てほしいんです。現状に絶望するよりも、未来の希望に目を向けたほうが、建設的でポジティブな発想なんじゃないかな。そうやって未来のために『内省する時間』が増えるというのは、いい時間の使い方の変化だと思います。人はネガティブなことを優先的に記憶するので、過去を正しく認知して、因果関係を知ったり、自分にとって大事なことを整備して、ポジティブな行動を増やしたりと、実際に時間の使い方が変わったという人が多いです。SNS過多になることは負の要素が大きいですが、“muute過多”は正だと思います」『muute』を通じて、「今」よりも「未来」をよくするために行動する。そこには、喜多氏が思い描く「セルフケア」業界の「未来」があった。「今、市場を賑わせている『セルフケア』や『ウェルビーイング』は、基本的に自分にベクトルが向きすぎていますよね。もちろん、自分は大事なものであることは前提として、みんなが自分のためばかりに頑張っている時代というのは、世の中の構造としておかしいなって。人との関係を通じてしか本当のウェルビーイングは実現されないと思うので。最終的には、自分じゃなくて外にベクトルを向けて、どれだけ他の人にギブできるかが大事だと思うんです。1人でいることはOKだけど、その状態で真に充足感が得られるかというと、絶対得られないと思う。自分を大切にする人が個別に100人いてそれぞれが満足しているよりも、誰かのために動ける人が100人集まってお互いに満足させているほうが、ずっとウェルビーイングですよね。そんなフィジカルなコネクションが大事にされたなかで、社会が成り立っていくような環境変化が起こると嬉しいです。でも、他の人にギブするためには、心のゆとりが必要。自分が満たされて初めて他人にやさしくなれると思うんです。それを生み出すためのファーストステップとして『muute』を使ってほしいですし、最終的には『muute』がなくなってほしい。そんな未来を踏まえると、最後に『muute』が生み出すのは『他の人のために使う時間』なのだと思いますね」今回お話を伺った喜多氏が手掛ける『muute(ミュート)』は、独自開発のAIが、書かれた内容と関連する感情や思考を分析し、さまざまなフィードバックを行うことで、自分の感情や思考、行動を客観的に振りかえることができるセルフケア・サービスだ。自分のために、そして他人にやさしくあるために、ぜひ心と思考を解きほぐしてみてほしい。関連リンクmuute公式サイト:https://muute.jp/ミッドナイトブレックファスト コーポレートサイト:https://www.mnbf.jp/