テレビ・新聞・雑誌・ラジオの4大マスメディアがコンテンツ消費の中心だった一昔前と比べ、現代はインターネットが普及し、コンテンツ消費のメディアやプラットフォームが増えた。これにより、消費者のコンテンツ消費スタイルの変化が進んでいる。その1つが、動画のショート化だ。YouTubeやTikTokなどにアップされるライトな動画に慣れ、消費者は今、2時間の映画や1時間のドラマに時間を投資しなくなってきている。このトレンドを捉えたプラットフォームとして2022年12月28日に走り始めるのが「1話3分のショートドラマ配信アプリ『BUMP(バンプ)』だ。現代の視聴スタイルに合ったコンテンツと視聴体験を実現する「BUMP」は、質の良い作品を生み出す若手クリエイターの可能性を拓く場としても期待される。今回は、「BUMP」を運営するemole(エモル)株式会社・代表取締役の澤村直道氏に話を伺った。本記事は前後編に分けており、前編では、「BUMP」が生まれた背景やプロダクトの特徴、現代の消費者に刺さるコンテンツ設計について紹介し、後編では、BUMPが目指す世界観や動画コンテンツの可能性について伺った。従来のテレビドラマや映画では若い世代をとらえきれない「うんこしながらYouTube見ませんか?」開口一番、澤村氏はこう切り出した。トイレに限らず、お風呂に入りながら、料理をしながらなど、スキマ時間や短い時間でコンテンツを楽しむ人が増えてきた。これは「超コンテンツマルチタスク」と呼ばれ、Z世代を中心に広がる消費傾向だ。特に今、TikTokやYouTubeのように、短時間で見られる「動画」が市場の中心となってきている。また、「プロセスエコノミー」と呼ばれるコンテンツの潮流もある。完成されたコンテンツだけでなく、制作過程(プロセス)を見るという消費で、代表例はNiziProject。アイドルユニットの発掘、育成の過程をオーディション段階からコンテンツとして配信することで、視聴者はそのストーリーや挑戦する姿に共感し、心を打たれ、ファンになる。「推し活」「推し消費」と言われる消費スタイルはZ世代を中心に広がる。このような消費スタイルの変化の中では、従来のテレビドラマや映画のようなコンテンツでは対応しきれない。ここの課題に切り込んだのが、澤村氏が立ち上げたショートドラマ配信アプリ「BUMP」である。今のコンテンツに重要な視聴体験とは澤村氏は、BUMPの特徴について次のように語った。澤村:1話1~3分でライトに視聴できるので、漫画アプリである「LINEマンガ」や「ピッコマ」のドラマ版と考えてもらえるとわかりやすいと思います。その上で、公開前の制作過程から見たり、支援したりして参加型で楽しむことができるのが大きな特徴です。ニコニコ動画のように、再生中に他の視聴者のコメントやリアクションを見ることができるので、盛り上がっている部分はすぐわかりますし、推し仲間がどういった視点で見ているのか、そのシーンの考察や感想などを楽しむことができます。また、今はYouTubeやTikTokで切り抜き動画が人気となっています。「BUMP」でもそのニーズに応えられるように、好きなシーンを5~10秒間切り取ってSNSでシェアできるようにしています。ターゲットはZ世代。たとえば大学生であれば、授業の合間や通学の電車の中、 夜寝る前などのスキマ時間での視聴を想定している。一方で、ショート動画は視聴しやすい反面、コンテンツとしての消費期限も短くなりがちだ。そこで澤村氏は、視聴者に没入感を与えるために、様々な設計を行う。澤村:『なんか気になる』という体験をいかに作り出すかだと思っています。各話の最後に必ず気になる展開を入れたり、最初にインパクトのあるシーンを持ってきて、説明描写は最小限に、テンポ感の速い展開を作ったり、視聴者に気付かせる伏線と気づかせない伏線をうまく取り入れたり。また、トンマナにも気をつけています。僕はZ世代のことを『加工ネイティブ』と勝手に呼んでいるのですが、彼らはTikTokやインスタグラムで普段から加工された映像を見慣れていますので、暗めのトーンが多い邦画のイメージよりは、肌や景色が非常に綺麗な韓国のコンテンツをイメージしたトンマナを目指しています。このように、展開や映像効果、再生体験を設計していくことで没入感を演出する工夫も必要だが、コンテンツそのものの面白さが何より重要であることは間違いない。そこで「BUMP」では、多様化する価値観やSNSの誹謗中傷、ルッキズムといった現代人が抱えがちな課題をテーマに選ぶなど、視聴者が共感しやすい工夫をしている。「1分で世界を沸かせ」ショートドラマ制作コンテストemoleは過去、2作の短編映画制作実績を持つ。そのノウハウとケイパビリティを生かして、自社オリジナルコンテンツ制作を行い、「BUMP」で配信する予定だ。一方で、クリエイター自身が制作した作品を「BUMP」に提供することで、有料話数の収益の35%を還元する仕組みも整えている。この2パターンの制作体制を構築することによって、コンスタントなコンテンツ制作・配信を担保する。澤村:うちはそもそも受託開発をやってきた会社なので、プロダクト開発はできます。その上で、コンテンツ制作の実績もつくってきました。脚本でも演出でも、YouTubeやTikTokを超えるもの、かつテレビドラマにはない斬新な視点を取り込んだ作品づくりを心がけています。プロダクトとコンテンツの両方でクオリティを担保できる会社はあまりないと思うので、そこを強みにして「BUMP」を成長させたいと考えています。「BUMP」のローンチに合わせるかたちで、emoleでは「1分で世界を沸かせ。」をテーマとし、ショートドラマを制作するコンテスト『BUMP AWARD 2022』を開催。クリエイターは、1話3分以内の連続ショートドラマの冒頭3話分をTikTokに投稿することで応募できる。募集期間は2022年8月17日(水)〜2023年3月31日まで。受賞作品は4話以降の制作を行い、「BUMP」に全話配信予定。もちろん、そこで上がった収益は応募者に還元される。個人のクリエイターが実力次第で制作作品から収益を上げていける環境をつくることを目指す「BUMP」ならではの取り組みだ。役者や監督が“本質的な努力”をできるような業界にしたい澤村氏は、大学卒業後、独学でデザイナーとして受託制作を行った後、emole株式会社を創業。「好きなことに仲間と挑戦できる世界をつくる」というビジョンのもと、クリエイターが0から1をつくるときの仲間集めができるマッチングプラットフォームとして「emole」というサービスを立ち上げた。しかしその後、会社は約1000万円の借金・未払いを抱え、継続が難しい状況に陥る。(詳細は下記note参照:1000万円の借金・未払いを背負った僕のジェットコースターのような2年間。【#1】)ただ、「emole」を運営する中で、得たこともあった。多くの演者、監督と話をする中で、芸能界の背景事情や業界構造の課題をリアルに知ることができたのだ。芸能界には保守的な部分があり、旧態依然の労働環境や慣習が続いているケースもある。その1つの理由が、約10チャンネルという限られた枠を取り合う中で、上下関係が生まれるなど構造的な歪みを起こしていることにある。澤村:今でもまだそうですが、これまではテレビに出ることが演者にとって最高のステータスでした。テレビは枠が限られているから、そこに出るためにテレビ業界で権力を持つ人の言うことを聞くしかない。あるいは、テレビ局や事務所に“媚びを売って気に入られる”など、本質的ではないことをして活動していくしかないという状況も起こり得ます。この課題を何とかしたいと思ったことが、『BUMP』の開発につながっています。※テレビ業界全体ではなく一部のケースです。なぜ「BUMP」が、業界構造の歪みを解決する一手となりうるのだろうか。後編では、BUMPが目指す世界観や動画コンテンツの可能性について伺った。関連記事前編:視聴者の「なんか気になる」を刺激するショート動画がコンテンツ消費を変える(now)後編:1人でも多くのクリエイターにチャンスを。業界構造の歪みに切り込み新たなエコシステムをつくる関連リンクBUMPサービスサイト:https://lp.bump.studio/emoleコーポレートサイト:https://emole.co.jp/