働く時間や場所に捉われず自由度の高い働き方が実現できる「フレキシブルワーク」は、女性の社会進出や高齢化の進展、ICTの発展に伴って世界で広く取り入れられてきました。日本では近年リモートワークが注目されていますが、ワークエンゲージメントの低い日本企業ではより大きな概念であるフレキシブルワークの導入も考えるべきでしょう。そこで今回は、フレキシブルワークの国内動向や海外での施策について見ていきましょう。フレキシブルワークとはフレキシブルワークは働く時間や場所に捉われず、休暇の取得に関しても自由度が高い働き方のことを指します。まずは、フレキシブルワークが求められるようになった背景や日本国内の動向について確認します。フレキシブルワークが求められる背景従来のオフィスでの働き方は、出社を前提とし、従業員それぞれの事情は考慮されずに画一的な働き方が求められていました。しかし、近年ではICTの急速な発展や女性の社会進出、働き手の高齢化の進展などに伴い、同じ場所、同じ時間に全員が働くという画一的な労働環境は見直されつつあります。フレキシブルワークは、まさにこの働き方をフレキシブル(柔軟)にする取り組みです。個人の職務特性やライフキャリアに合った働き方が認められるため、従業員の会社に対するエンゲージメントを高めることが期待されています。フレキシブルワークを導入する4つのメリットフレキシブルワークを導入することで、主に以下の4つのメリットが得られると考えられます。従業員のエンゲージメントの向上2022年にアメリカの調査会社ギャラップが公表したレポートによると、熱意の高い(従業員エンゲージメントの高い)従業員はアメリカやカナダで30%、東アジアでも25%を超えるのに対して、日本では僅か5%程度でした。従業員のエンゲージメントを高めるためには、労働環境を整える必要があります。フレキシブルワークを導入することで、職場の働き方の自由度を高め、従業員のエンゲージメントを向上させることが期待できます。生産性の向上場所や時間の制約を少なくし、従業員一人ひとりに適した労働環境を提供することで、業務のパフォーマンスが向上するかもしれません。近年ではICTの発達によりリモートワーク用のコミュニケーションツールが数多く提供されるようになっており、これらのツールを使うことでオフィスに出社しなくてもチームで仕事ができるようになりました。また、労務管理システムなどのバックオフィス系のシステムを取り入れることで、正確な打刻による出勤・退勤や残業時間の把握もできるようになっています。リクルーティング面での優位性フレキシブルワークは、新規・中途採用時の労働環境のアピールポイントとしても強みを発揮します。実際に、株式会社ガロアが実施した「大学生の就職活動・企業選びの実態調査」によると、やりがいや業績の安定性と同程度に、「ワークライフバランスがとれる」「福利厚生が良い」といった労働環境が求められていることがわかります。フレキシブルワークは単にフレックスタイム制やリモートワークを個別に導入すれば実現するものではなく、これらの従業員のニーズを的確に反映する総合的な施策です。フレキシブルワークを高いクオリティで実現できれば、リクルーティングにおいて大きく優位に立つことができるでしょう。BCP対策BCP(Business Continuity Plan)とは、災害に見舞われた際など、緊急時において重要な事業を継続できるようにするための計画のことです。緊急時における事業の継続・早期復旧のためには、交通機関の麻痺やパンデミックへの対応など、考え得るさまざまなリスクを考慮する必要があります。フレキシブルワークにより従業員が自宅やサテライトオフィスに分散して勤務している場合、これらのリスクが多くの従業員を襲うリスクを低減することができます。フレキシブルワークの国際比較フレキシブルワークには以下のような要素が必要と考えられます。フレックスタイム制リモートワーク休暇制度の充実(育児・介護休暇・有給制度)ここでは、以上の要素を中心に、日米英のフレキシブルワークの受容状況について国際比較をしていきます。働き方の自由度に関する国際比較フレキシブルワークにとって重要な要素である「フレックスタイム制」の導入については、厚生労働省の令和3年「就労条件総合調査」で調査の項目があります。同調査によると、国内で導入している企業は全体の6.5%に過ぎません。また、フレックスタイム制は企業規模による差が顕著であり、1,000人以上の大企業では28.7%も導入している企業がある一方で、100人未満の小規模な企業では4.1%しか導入されていないのが現状です。アメリカでは、フレックスタイム制に関する一律の法律はなく、雇用主と個別に労働条件について契約を結ぶことになります。リクルートワークス総合研究所によると、2014年時点でフルタイム労働者の66%が何らかのかたちでフレキシブルワークで働いているとされていますが、フレックスタイムに関する詳細なデータは確認できません。一方、在宅ワークの実施率に関しては、日本は18%、アメリカが21%、イギリスで25%となっており、コロナから2年以上が経ち、いずれもある程度自由な働き方が普及していると言えるでしょう。休暇制度の国際比較休暇制度では、育児休暇制度・介護休暇制度を検討する必要があります。育児休暇制度に関しては、日本では育児・介護休業法に基づき育児休暇を取得することができますが、女性が8割以上取得しているのに対して男性は12%程度と大きな差が見られることが課題です。一方で、イギリスでは男女で開きはほとんど見られないことが特徴で、 母親の出産・両親休暇の取得率は2013年時点で58%、父親休暇についてはも2009年の調査時点で55%の取得率となっています。介護休暇制度においては、日本では法律に基づいているにも関わらず、ほとんど利用されていないません。イギリスは法定の介護休暇制度はないものの、民間団体による支援により普及が促されています。なお、アメリカでは育児休暇制度・介護休暇制度は存在しません。有給休暇制度の国際比較最後に有給休暇制度について国際比較を行います。まず、日本では労働基準法により、雇用から6ヶ月が経過し、その間8割以上出勤した者に最低10日付与される決まりになっています。一方、アメリカの有給休暇制度は法律に基づくものではなく、年間で2~3週間程度の有給休暇がある企業、有給休暇制度がない企業などまちまちです。イギリスの場合は、有給休暇は年次内で処理する事が原則となっており、医師の診断書がない風邪などによる休みの場合、連続7日までは有給休暇を使わずに休むことができます。フレキシブルワークは従業員の選択肢を増やす方法これまで見てきたように、フレキシブルワークは従業員のライフスタイルに寄り添った労働環境を提供することで、彼らの仕事や生活への満足度を高めることが期待できます。日本はリモートワークなどの働き方ではアメリカやイギリスに遅れを取っていたものの、休暇制度などを見ると必ずしも全てにおいて後進的ではありません。今後はリモートワークの定着化とともに、育児休暇制度の男女間ギャップや介護休暇制度の活用などが推進されることで、よりフレキシブルな働き方が実現されていくことが期待されます。