2025年、転職市場で「応募の決め手」になる条件が大きく変わってきています。給与・職務内容と並んで、働く時間・場所の柔軟性が応募判断のトップ3に入る求人サイトが珍しくない状況。フレキシブルワークは、福利厚生の一項目から、応募意思決定の主軸へと地位を変えています。
ところが、「導入したいけれど、何から始めればいいのか分からない」という声を、経営者や採用責任者からよく聞きます。制度設計だけ整えても運用が回らない、運用は回るけど採用効果につながらない、社員の満足度は上がるが事業生産性に懐疑が残る。制度の話と、採用ブランドの話と、組織カルチャーの話が同時に絡んでくるテーマだからです。
本記事では、フレキシブルワークを 「制度の話」ではなく 「人材戦略・採用ブランドの話」として捉え直してみます。国内外の現状、4つの効きどころ、打ち出しの設計まで。経営者・採用責任者の視点で整理しました。
フレキシブルワークとは何か
まず言葉の整理から。フレキシブルワークは、働く時間・場所・休暇取得の自由度を高めた働き方の総称。リモートワーク、フレックスタイム、時短勤務、育児・介護休暇制度など、個別の施策を束ねた 総合概念として捉えるのがポイントだったりします。
リモートワーク単体、フレックス単体で論じる議論は、現場では結構多い印象。それぞれを点で導入しても、人材戦略の効果は出にくい。働く人のライフキャリア全体を、どう支えるかという視点で束ねたときに、初めて採用や定着の数字が動きはじめます。
カロアの実感で言うと、採用に効いている企業ほど、個別の制度を語る前に 会社としての姿勢を言語化している。「うちはこういう人にこういう働き方をしてほしい」という意思が先にある。制度は、その意思を実装した結果として並んでいる。順番が逆になると、どれだけ制度を増やしても、求職者には響かなかったりします。
なぜ今、フレキシブルワークが「人材戦略」の話なのか
従来の議論では、フレキシブルワークは「働きやすさ」「ワークライフバランス」の文脈で語られることが多かった印象。これ自体は間違っていません。ただ、経営者・採用責任者にとっては、もう一段事業に近い文脈で捉え直すほうが、判断がしやすい。
ブランド開発や採用サイトの現場で感じる、2つの変化があります。
ひとつは、採用市場での選ばれ方。求職者は応募前に企業のWebサイトやSNSを徹底的に読み込みます。働き方の柔軟性に関する情報が出てこない会社、または曖昧な記述しかない会社は、検討の早い段階で候補から外れていく。これは新卒・中途を問わず、ここ数年で顕著になった傾向だったりします。
もうひとつは、労働力人口の構造変化です。育児・介護を抱えながら働く層、地方在住で都市部の仕事に就きたい層、副業・複業で能力を発揮したい層。フレキシブルワークの設計次第で、こうした層を採用候補に入れられるかどうかが決まります。逆に画一的な働き方しか選択肢がない会社は、採用できる母集団が静かに狭まっていく。
つまりフレキシブルワークは、事業成長のための人材プールを、どこまで広く取れるかという経営判断と直結します。福利厚生の話ではなく、採用ブランドと人材戦略の話として捉え直す必要があるのは、そのためです。
フレキシブルワークが効く、4つの場面
カロアが企業のブランド・採用支援でご一緒する中で、フレキシブルワークが事業の数字に効いていると感じる場面を、4つに整理してみます。
採用候補の母集団を広げる
最初に効いてくるのが、採用市場での母集団の広さです。
リモートワーク可、フレックス可、時短可。こうした選択肢を制度として持っている会社は、応募できる人材の幅がそもそも違います。地方在住の優秀層、子育て中で時短勤務を望む層、副業で関わりたい層。これらが現実的に選択肢に入ってくる。
実際にあった話で言うと、リモート可の打ち出しを採用サイトに丁寧に書き込んだだけで、応募の地域分布が一気に広がったケース。それまでオフィス周辺にしか応募が来なかったのが、全国から候補者が集まるようになった。求人広告の出稿を増やしたわけではなく、働き方の選択肢を 明示しただけでした。
裏を返すと、選択肢を提示していない会社は、見えないところで応募者を取りこぼし続けています。これは結構深刻なコストだったりします。
採用後の定着率を上げる
次が、定着の話です。
採用に成功しても、入社半年〜1年で離脱されると、ほぼ採用コストは回収できません。フレキシブルワークが整っている会社では、入社後のライフイベント(結婚・出産・介護など)を理由とする離脱が、目に見えて減る印象があります。
ある調査では、日本の従業員エンゲージメントは世界平均と比べて低い水準にあるという話が知られていたりします。アメリカやカナダで30%、東アジアでも25%を超える層が「熱意を持って働いている」と回答する一方、日本は5%程度という数字が、2022年のギャラップ社のレポートで報告されています(※)。エンゲージメントの低さの全部が働き方のせいではありませんが、画一的な労働環境がエンゲージメントを下げる一因なのは、現場感覚としても納得できる指摘です。
※ Gallup「State of the Global Workplace: 2022 Report」
働き方の選択肢があると、社員は 自分の人生のフェーズに合わせて働き続けられる。出産・育児で辞めなくて済む、親の介護で辞めなくて済む、引っ越しで辞めなくて済む。これは離職率の数字に直接効いてきます。
生産性を底上げする
3つ目は、生産性の話。これは少し慎重に語る必要があります。
「リモートワークにしたら生産性が下がった」という声と、「フレキシブルワークで生産性が上がった」という声が、両方存在しているからです。後者の会社には共通点がある。それは、仕組みとツールが整っているということ。
具体的には、業務のデジタル化、コミュニケーションツールの整備、勤怠・労務管理のシステム化。場所と時間が分散しても、業務が止まらない仕組みが先に作られている。これがあると、社員は集中できる時間帯・場所で仕事ができるので、結果としてアウトプットが上がりやすい。
逆に、紙とハンコと対面会議が前提のままリモートワークだけ導入すると、生産性は確実に下がります。フレキシブルワークは制度ではなく、仕組み全体の再設計だと捉えると、判断を間違えにくいと感じています。
事業継続性(BCP)を高める
4つ目は、BCP(Business Continuity Plan、事業継続計画)の観点です。
災害、感染症、交通機関のトラブル。事業継続を脅かすリスクは、過去10年で具体的なイメージを持てるようになりました。社員が物理的にひとつのオフィスに集結している状態は、BCPの観点では脆弱です。
社員が分散して働ける状態を平時から作っておくと、緊急時の事業継続が現実的に可能になる。これは「採用ブランド」の文脈とは別の効きどころですが、経営者の判断材料としては大きい話だったりします。
日本のフレキシブルワーク、世界と比べてどこにいるのか
ここで現状を、少しデータで整理しておきます。
フレックスタイム制の導入率を見ると、厚生労働省の調査では国内全体で6.5%程度(令和3年「就労条件総合調査」)。これが企業規模で大きく違ってきます。1,000人以上の大企業では28.7%、100人未満の小規模企業では4.1%。
在宅勤務の実施率は、コロナ禍を経て日本18%、アメリカ21%、イギリス25%程度という数字が報告されています。日本も以前と比べれば普及は進んだものの、英米と比べると 選択肢の広さで一段遅れているのが正直なところです。

育児休暇制度に目を向けると、日本は法整備自体は進んでいます。育児・介護休業法に基づく育休取得は、女性で8割を超える一方、男性は12%程度。

イギリスでは男女差がほぼなく、母親・父親ともに55〜58%程度の取得率です(2009〜2013年時点)。アメリカは育休制度が連邦法では整備されておらず、企業ごとの差が大きい。日本は 制度はあるが取得が偏っているという、別の課題を抱えていると言えます。
カロアが採用サイトをご一緒するときによく話題になるのが、この 「制度はあるが取得実績が出ていない」というギャップ。求職者から見ると、「制度がある」だけでは信用されません。男性育休の取得実績、時短勤務後の復帰率、リモートワーク利用者の比率。実績の数字が出せる会社が、採用市場で選ばれる時代に入っていたりする。
数字が出ない理由を、社内に対して 率直に説明できるかも同じくらい大事だったりします。「いま男性育休はゼロですが、来年の制度改定でこう変えます」という未来の意思を一緒に出せる会社は、求職者から見ても誠実に映る。出せていない数字を隠すよりも、認識して動きはじめている姿勢のほうが、採用市場では強いブランドになります。
なぜ「制度」ではなく「ブランド」として設計するのか
ここまで読んでいただくと、フレキシブルワークが単なる人事制度ではなく、会社としての姿勢の表明であることが見えてきたかと思います。
採用ブランディングを設計するときに、必ず一緒に考える問いがある。「うちはどういう働き方を価値だと思っている会社か」という問いです。
たとえば、こんな選択肢が並びます。
「社員が長く働き続けられること」を価値の中心に置くのか
「アウトプットの質と量」を価値の中心に置くのか
「多様な人材が能力を発揮できる場」を価値の中心に置くのか
これらは矛盾するわけではありませんが、重心の置き方で会社の打ち出し方が変わります。重心が決まると、必要な制度設計が見えてくる。逆に、制度を先に決めて重心を後付けすると、会社のメッセージがぼやけてしまう。
求職者は、制度のリストではなく 意思を見ている。「うちはこういう働き方を価値だと思っているから、こういう制度を整えています」という順番で語れる会社は、採用市場で記憶に残る。残った記憶が、応募・選考・入社・定着の各段階で効いてくる。これが、カロアの考える 採用ブランドとしてのフレキシブルワークです。
この順番は、採用ピッチや面接でも効いてきます。制度の説明から入ると、求職者は他社との比較表を頭の中で作り、条件勝負に持ち込まれてしまう。意思から入ると、求職者は 「この会社で働く自分」を想像する側にまわる。比較から想像へ、思考のモードが変わる。同じ制度を持っていても、語る順番が違うだけで、意思決定の質が変わってきます。
自社のフレキシブルワーク、どこから手を付けるか
最後に、経営者・採用責任者として明日から動ける、3つの問いを置いておきます。
自社の「働き方の意思」は言語化されているか
「うちはこういう働き方を価値だと思っている」を、社外向けに言える状態にあるか。制度のリストではなく、意思の言葉。これがないと、制度を増やしても求職者には届きません。
制度の「実績」は数字で出せるか
男性育休取得率、時短勤務後の復帰率、リモートワーク利用者比率。求職者が知りたいのは、制度の有無ではなく実績だったりする。出せない数字があるなら、それが次に整える優先順位を示しています。
採用サイトに、働き方の情報は出ているか
意思と実績が言語化できたら、それが採用サイトに出ている状態を作る必要があります。カロアがお手伝いする採用サイトのリニューアルでも、フレキシブルワークの章を新設するケースが増えていたりする。「制度一覧」ではなく、「うちで働くと、人生のこの時期にこういう選択ができる」という形で語ると、求職者の意思決定に効いてきます。
フレキシブルワークは、もう「導入するかどうか」を議論する段階を過ぎている、とカロアは見ています。問いは、どう設計し、どう打ち出すかに移っている。会社の姿勢を表明する仕組みとして整えれば、採用ブランドの一部として静かに資産化していく。
一気に完璧を目指さなくて大丈夫。意思を言語化する、実績の数字を出せる状態にする、採用サイトに出していく。この3歩を一年かけて進めるだけで、会社の見え方は確実に変わります。働き方の設計を、人材戦略の資産として育てていく。これが、カロアが現場で見てきた、再現性のある進め方です。
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