現代の視聴スタイルに合ったコンテンツと視聴体験を実現する、1話3分のショートドラマ配信アプリ「BUMP(バンプ)」。質の良い作品を生み出す若手クリエイターの可能性を拓く場としても期待される「BUMP」を運営するemole(エモル)株式会社の澤村直道氏へのインタビュー。前編では、「BUMP」が生まれた背景やプロダクトの特徴、今の消費者に刺さるコンテンツ設計について解説してもらった。後編では、クリエイターを取り巻く課題と澤村氏が目指す世界観、ファストなコンテンツ消費が行われる中での「いい時間」の過ごし方について話を伺った。目指すは「ショートドラマのNetflix」今は、スマホの普及とともに、インターネットTVや動画配信サービスなど、少しずつクリエイターの活躍の場は増えている。YouTubeの拡大により、自分の好きなことを好きなように発信できるような環境ができてきた。だが一方で、個人で映像コンテンツをつくり、露出・拡散して収益を得て、生計を立てるまでに至っているのはほんの一握りのクリエイターだけというのが現状である。澤村:制作のハードルは下がってきていますが、収益性は課題です。たとえばYouTubeに出すと、再生単価0.1円だとすると100万再生でも10万円の収益にしかなりません。『BUMP』では、有料話数の収益の35%を還元する仕組みなので、収益性は格段に上がるはずです。そうやって還元することで、クリエイターたちが持続的に制作したり、新たな挑戦をしていけたりする環境をつくりたいと考えています。クリエイターに求められ、業界に影響を与えていくためには、プラットフォームやメディア自体が相応のパワーを持つ必要がある。澤村氏が「BUMP」で目指すのは「Netflixと対等に戦えるプラットフォーム」だ。澤村:僕らが作る場所が、温かみがあって、かつパワーのある場所になれば、必然的に業界全体が変わっていくと思います。「クリエイターがチャンスを得られる場所を増やしたい」。これは、「好きなことに仲間と挑戦できる世界をつくる」という当初のビジョンや、創業当初のプロダクトから一貫して澤村氏が大切にしてきた想いだ。クリエイター、ファン、メディアが共生できる「クリエイターエコノミー」の創出「BUMP」のローンチにあたり、コンセプトに共感した監督や演者が集まりつつある。地上波テレビのドラマ経験を持つ人や、Abema TVでコンテンツを出している人、MV制作経験のある人など、気鋭の若手クリエイターたちが今、次々と「BUMP」のコンテンツ制作にあたっているという。過去にも、ショートドラマ配信の事業にトライしてきたスタートアップや大企業はある。だが、いまだに成功事例がないのは、短尺コンテンツの特徴を生かせていないからではないかと澤村氏は推測する。澤村:元々映像の業界にいる人たちは、長尺コンテンツとしてのクオリティをベースに置きながら短尺化しようとします。でも実際には、短尺と長尺のコンテンツではまるでものが違うんですよ。長尺コンテンツで良しとされるものが、短尺化すると面白くないことは多いんです。YouTubeでよく使われる『ジャンプカット』という編集技術は、長尺をやってきたクリエイターからすると違和感がある。でも視聴者からすると、ぶっちゃけそんなところ気にならないんですよね。そういう感覚の違いがあると思います。予算規模も違い、長尺に慣れている人は最初からお金をかけすぎてしまう傾向にあります。また『BUMP』では今、同時並行で5~9作つくっていますが、長尺だとそんなことはありえない。そういうところへの適応はやはり若手クリエイターの方が柔軟ですね。「BUMP」のコンテンツ制作については、1話あたりの予算は小さいものの、演技、演出、撮影、照明、音声など、YouTubeやTikTokを超えるクオリティを担保する。これは、自社でコンテンツを制作できるemoleだからこそできることだ。「視点やテーマは、テレビ局のドラマにはないような斬新さで、今のクリエイターがつくっているなと思われるものをつくっていく」と澤村氏は意気込む。さらに、クリエイターが輝ける場所をつくるだけでなく、新人クリエイターの育成も見据える。そこで成長し、ゆくゆくはテレビ等の他プラットフォームで活躍できる人材を輩出すること、あるいはテレビで活躍する人材がBUMPでのコンテンツに関わりたいと思うほどのメディアパワーを持つことを目指す。そこに、クリエイターや作品に対して支援することでファンを巻き込む仕組みを取り入れ、それが上手く回るようになれば、理想的なクリエイターエコノミーとなっていくだろう。 「たった1分間で心揺さぶる体験をつくる」「費用対効果(コスパ)ではなく時間対効果(タムパ/タイパ)を大事にするようになってきている」というのは、Z世代の消費傾向として語られることが多い。だが澤村氏は、その消費傾向はZ世代に限った話ではないと述べる。情報量や選択肢が増える中で、消費者は、「自分にとって何をする(見る)時間が一番幸せなのか、快楽が得られるのかを事前に把握しておきたい」というニーズを抱えるようになった。それは昨今広がる「ネタバレ消費」という傾向にもつながるものだ。澤村氏は、「ファストシネマ問題」を引き合いに出して次のように語る。澤村:「ファストシネマは、制作側と全く関係のない人が勝手に作品を切り刻んで出すことで収益を上げていることが問題です。ただ、YouTubeやTikTokの『切り抜き』需要の高まりに見られるように、『先に作品の一部を見たい』というニーズはものすごく高い。それなら、公式がダイジェストのような形でショートコンテンツ化して出したらいいんじゃないかと思います。服を試着するのと同じような感覚で、そのドラマなり映画なりが自分の嗜好と合っているのかを知った上で、本編に1時間や2時間という時間を投資してもらう。制作側はそういう考え方に切り替えないといけないですし、そのステップの1つとして、『BUMP』を活用できたらいいなと思っています。このように、人々のコンテンツへの向き合い方は変わりつつあり、より時間を投資することにシビアになっているように見える。最後に、そんな「タムパ(タイパ)」が求められる時代に、澤村氏にとっての理想の時間の過ごし方を聞いてみた。澤村:僕は2つの観点で、『いい時間』を考えています。1つは、自分の好きなことに対して、仲間と一緒に取り組んでいく時間。これが人生において最も幸せな瞬間だなと思っています。苦しい時間も上手くいった時間も一緒に乗り越えて共有できる仲間がいることは幸せですし、その時間は人生を振り返るときに『いい時間だったな』と思えると思います。2つ目は、ちょっとした時間の充実です。現代は、時間の使い方が細分化されてきていて、人はちょっとしたスキマ時間を『暇』と感じます。そんな、日々少しずつ存在する暇な時間に、ショートのコンテンツを見ることでその時間の楽しさや充実を感じられたらいいなと思うんです。エンタメコンテンツって、『そのコンテンツが楽しみで1日頑張れる』みたいな力を持っていると思っていて。コンテンツによってスキマ時間を価値のあるものに変えていくのが『BUMP』というサービスです。『BUMP』のコンセプトは「たった1分間で心揺さぶる体験をつくる」。1日1BUMP、小さな刺激が積み重なって、いい時間につながればいいなと思います。「BUMP」では今後、強力なコンテンツをつくりつつ、日本や韓国、東南アジアなど、グローバル規模の配信を予定している。コンテンツ、プロダクトの両面でドライブさせるため、2022年8月にシードラウンドでの資金調達も実施した。国内外で成長を続ける巨大市場に挑む「BUMP」は、クリエイターの可能性を広げ、視聴者の新たな感動体験を生み出していく。関連記事前編:視聴者の「なんか気になる」を刺激するショート動画がコンテンツ消費を変える後編:1人でも多くのクリエイターにチャンスを。業界構造の歪みに切り込み新たなエコシステムをつくる(now)関連リンクBUMPサービスサイト:https://lp.bump.studio/emoleコーポレートサイト:https://emole.co.jp/