あなたは、将来に向けたスキルアップや自己啓発に時間を使っているでしょうか?会社で実施される研修や講座以外に、読書や語学、資格取得に向けた学習など、自ら学んでいることはありますか?テクノロジーが加速度的に進化し、社会情勢も大きく動く世の中では、求められるスキルはどんどん変わります。それに適応していくためには、継続的に学び、今あるスキルを高めていったり、新たなスキルやマインドセットを身につけたりする必要があります。しかし、日本人の学びへの姿勢には課題が山積しているのが実情です。今回は、2022年5月に経済産業省から出された「未来人材ビジョン」をベースに、日本の労働市場の実態とこれから個人がすべきことについて紐解きます。日本の労働市場の現状2022年5月に経済産業省から出された「未来人材ビジョン」でレポートされた内容が話題となっています。「日本企業の部長の年収はタイよりも低い」といった言説を目にしたことがある人もいるかもしれません。この「未来人材ビジョン」では、日本の労働市場への問題意識が強く示されています。日本では「労働市場の両極化」がはじまっているテクノロジーが進化し、生活や仕事のあらゆる場面でデジタル技術が取り入れられています。「AIやロボットに仕事を奪われる」と言われて久しい中、実際に「日本の労働人口の49%が将来自動化される」との予測もあります。「本当にそうなるのか?」はまだわかりませんが、実際にアメリカでは、自動化により「労働市場の両極化」が起こっています。画像:https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220531001/20220531001-1.pdf「労働市場の両極化」とは、医療・対個人サービス職や清掃・警備職などの「低スキル」と分類される職種と、技術職・専門職・管理職などの「高スキル」と分類される職種の割合が高まり、製造職・事務職・販売職などのいわゆる「中スキル」職種の割合が低下していくことです。「中スキル」職種はAIやロボットの導入で自動化することで生産性が高まりやすいのです。逆に「低スキル」職種はAIやロボットの導入・運用コストよりも、人件費の方が安く抑えられる現状がある、あるいは柔軟な対応が必要なために自動化しづらい特徴があります。そして「高スキル」職種は現状、AIやロボットに置き換えられるレベルではない業務が中心となります。アメリカでは10年ごとの職種割合が、多い職種で30%ほど増減しています。日本にもこの「労働市場の両極化」の兆候が見られます。特に製造職(中スキル)においては、1985年から2015年にかけて減少し続け、医療・対個人サービス職(低スキル)や専門職(高スキル)においては増加傾向にあります。2050年には生産年齢人口が3分の2にご存知の通り、日本の総人口は減少局面にあります。総人口だけでなく、今後は生産年齢人口(15歳以上65歳未満の働ける人数)も減少していきます。推計によると、2020年に約7400万人いる生産年齢人口は、2050年には約5300万人、つまり3分の2にまで落ち込んでいくとされています。画像:https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220531001/20220531001-1.pdfこのような中、外国人労働者への需要が高まっています。コンビニや飲食店で他国出身の従業員をよく見かけるようになりました。しかし、それでも国内の需要に供給が追い付かないという予測もされています。2030年には外国人労働者需要419万人に対し、供給ポテンシャルは356万人と推計され、実に63万人不足するのではないかと考えられているのです。日本の魅力度は低下している世界全体の人口は増え続けているのに、日本で働く外国人が足りていない。これは少し考えると不思議な現象です。その理由は何でしょうか。日本で働く制度的なハードルが高いから?日本語が難しいから?移民を受け入れていないから?これらも要因の一つであると考えられますが、OECDのある調査が大きな示唆を与えてくれています。OECDが実施した「高度人材を誘致・維持する魅力度ランキング」において、日本は先進各国から大きく水をあけられた25位。1位はオーストラリア、2位はスイス、3位はスウェーデン。その後はニュージーランド、カナダ、アイルランド、アメリカ、オランダ、スロベニア、ノルウェーがベスト10となっています。画像:https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220531001/20220531001-1.pdf高度人材とは、労働市場における「高スキル」職を担うような高い付加価値を出せる人材。この調査で、彼らにとって日本は「働きたい」と思える国ではないという事実が突き付けられているのです。「日本はインバウンドの超富裕層向け宿泊施設が不足している(もしくは安すぎる)ことで、海外セレブにがっかりされる」と言われることがありますが、同様に高度人材にとって、自分たちの能力を存分に生かせる環境がない、と感じていることが現実なのではないでしょうか。このような状態では、外国人労働者が需要通りに増えていくことはないでしょう。日本の労働者の意識ここまで、現在の日本の労働市場をマクロな視点で見てきました。では、労働者個人はどのような状況なのでしょうか。端的に言えば、日本の労働者の意識は、戦後長く経済成長を続け、安定した収入が確保できてきた「日本型雇用システム」に縛られてしまっている状態だと言えます。しかし、日本型雇用システムはすでに限界を迎えており、このままでは日本社会としても個人としても継続的な成長が見込めない状況に陥っています。企業へのエンゲージメントは最低水準画像:https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220531001/20220531001-1.pdf「未来人材ビジョン」によれば、日本企業の従業員エンゲージメントは、世界平均が20%のところ、日本はわずか5%。世界全体でみて「最低水準」にあります(エンゲージメントは「個人と組織の成長の方向性が連動していて、互いに貢献し合える関係」と定義)。地域別でみると、東アジア平均は14%と世界全体と比較して低いのですが、その中でも日本の数値の低さは群を抜いています。また、アジア・オセアニア地域を対象とした調査では、「現在の勤務先で働き続けたい」と考える日本人は52%。インドの86%を筆頭にベトナムや中国、フィリピンなどが80%を超えていることを踏まえるとかなり低いように感じます。転職や起業への意識は低い一方で、「転職意向のある人」「独立・起業志向のある人」の調査結果を見ると、日本の労働者の奇妙な現実が見えてきます。「現在の勤務先で働き続けたい人」の割合が他の国々に比べて低いのにもかかわらず、「転職意向のある人」「独立・起業志向のある人」の割合も、日本は各国に比べて低いのです。画像:https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220531001/20220531001-1.pdf日本で「転職意向のある人」は25%ですが、インドでは52%、ベトナムや香港でも40%を超えています。「独立・起業志向のある人」、インドネシアで56%、インド、タイ、フィリピンなどでも50%を超え、他のどの国でも20%以上はあるのに対し、日本は16%。こちらは群を抜いて低い割合になっています。つまり日本人は「今の職場には不満足だけど、転職も独立もしたくない」という意識傾向があるということです。その背景には、転職によって賃金上昇につながるケースが少ない、今の職場で出世するにもかなりの年数が必要であり、責任が増えるわりに年収が上がらない、といったジレンマがあると考えられます。実際に、今の日本企業の平均的な部長職の年収はタイ企業の部長の平均年収を下回っているという現状があります。画像:https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220531001/20220531001-1.pdfまた、「独立や起業はリスクが高く、企業に就職していた方が安全」とリスクを避けたがるのが日本人の大多数。このあたりの価値観が、他国とは異なっているのかもしれません。企業は人に投資をせず、個人も学ばない画像:https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220531001/20220531001-1.pdf変化の激しい時代を生き抜くためには、学び続け、新しいスキルを身に付け続ける姿勢が非常に重要です。しかし、日本企業が人材投資に使うお金は、世界から見て少なめ。独立の精神が強いイメージのあるアメリカ企業でもGDP比で2%前後の人材投資をしているのに対して、日本はGDP比なんと0.1%(2010~2014)。社外学習や自己啓発を行っていない人の割合は46%にのぼります。このデータを見ると、日本人の自己研鑽への意識は低いと言わざるを得ません。転職も独立もしたくないし、現在の職場で働き続けたいわけでもない、自ら学ぶこともない。そして、企業もそこに投資しようとしていない。仕事に対するこのような意識の低さは、日本全体の競争力を下げてしまいます。実際に、日本の国際競争力はどんどん下がっているのです。バブル期だった1989年には世界で1位、そこから「失われた30年」の間に下降を続け、2021年のデータではなんと31位。アメリカは30年前も現在もトップ10を維持していますから、日本の下落は特に目立ちます。将来に向けて個人がすべきこと日本企業や日本人労働者の競争力は危機的状況にあります。このような中で、個人は何をすべきなのでしょうか。企業が人材投資をしていないからといって、それを個人の自己研鑽をしないことの免罪符に使っていては、企業と個人は同じように悲しい末路をたどることになります。個人は個人で、今すべきことをやっていくことで、日本のみならず世界で通用する人材になることができるはずです。将来に向けて個人がすべきことを3つの観点から見ていきます。雇用の流動化に向けたスキルの獲得1つ目は、スキルアップおよび新しいスキルの習得です。これは短期的にも長期的にも、労働市場を生き抜く上で大切な行動となります。2020年のダボス会議において、「リスキリング革命」という概念が提唱されたこともあり、最近では「リスキル」「リスキリング」という表現がよく使われています。「リスキリング」とは、テクノロジーやビジネスモデルの変化に対応すべく、特にDX業務関連のスキルを新しく身に付けることを指します。自律した人材、高度人材を育成するために重視されるべきとして、企業の人材投資のテーマにもなっています。これからは、ますます人材の流動性が高まっていきます。転職はもっと当たり前になり、就職→独立(フリーランス)→就職といった、雇用形態を変えながらのキャリア形成も一般的になっていくでしょう。流動的なキャリアこそ、これからの時代の生存戦略となりうるのです。そのために、どの環境でも通用するスキルを身に付ける必要があります。自己投資のためのお金の確保2つ目は、お金の確保です。自己研鑽したいと思っても、そのためのお金がなければすることができません。子どもの教育や金融投資に資金が必要なように、将来に向けて自分を磨く「自己投資」にもそれなりの資金が必要。現状で収入=生活費(またはそれ以下)の人は、支出を見直し、毎月の収支がプラスになるように調整しましょう。そしてその浮いたお金を、自己投資に回していくのです。ただ、最初から何十万円という大金を用意する必要はありません。むしろ自己投資の初心者が、高額すぎる講座や情報商材に手を出すのは得策とは言えないのです。本を買ったり、手ごろな講座に申し込んだり、同じ目標を持つ人たちが集まるコミュニティに参加したりするくらいの金額をまずは貯めましょう。自己投資のための時間の確保3つ目は、時間の確保です。お金の確保と同様に、自己研鑽のためには時間の確保も非常に重要です。どんなにお金があっても、自分のために自由に使える時間がなければ意味がないからです。たとえば、毎日業務が終わらずに残業をしている人は、まとまった自分の時間が取りづらいでしょう。また、少しでも直近の収入を確保しようと「あえて残業をしている」人もいるのではないでしょうか。しかし、これには注意が必要です。今大切なことは「直近の手取り」よりも、「将来の収入」を増やそうとする意識を持つこと。日常業務を効率的に終わらせて残業を減らし、自由に使える時間を生み出していきましょう。時間とお金はある程度反比例してしまうので、バランスを取るのに工夫が必要ですが、少しずついい塩梅を見つけていけるといいでしょう。日本の現状を踏まえ自己研鑽をすることで周りと差がつく日本企業や日本人労働者個人の課題意識や学ぶ姿勢は、平均するとお世辞にも高いとは言えません。ただし、中にはしっかりと自己研鑽を行い、変化に対応できるスキルを身につけ続けている人もいます。つまり、自ら学ぶ姿勢を持ち、行動を起こすだけでも周りと差がつくということです。時代の大きな流れと、今の自分に必要なものを見極め、お金と時間を確保することが、これからの自己研鑽の鍵になってきます。 参考:経済産業省「未来人材ビジョン」